──海老名。
海老名は神奈川の真ん中あたり。交通情報のニュースで、海老名SAの名前がときどき出るので、名前だけ知っている人も多いかもしれない。
一昔前は何もなく、それこそ本当にSAくらいしかなかった(失礼)のに、最近特に発展の目覚ましい土地だ。
高速道路もそうだが、電車も、小田急線、相鉄線、相模線が通っているし、駅を挟んで東に「ビナウォーク」、西に「ららぽーと」と2大ショッピングモールがしのぎを削る。微妙に可愛くない(失礼)謎のゆるキャラ「えびーにゃ」もすっかり定着し、いわば神奈川の西のターミナルである。
2017年8月31日。
そんな海老名のあるブックカフェが惜しまれながら閉店した。
「BOLW ららぽーと海老名店」。
この写真では天井しか映っていないが、ナチュラルテイストのテーブル、座面がふかふかの椅子と、イミテーショングリーンたちに彩られた広いカフェだ。本屋さん・雑貨屋さんが併設されており、食事を注文すると、購入前の本を席で読むことができるシステムだ。
周囲は思い切りショッピングモールの喧騒なのに、この場所だけはちょっとだけ静かで居心地が良い。それはきっと、外面だけを取り繕う若者向けファストファッションのショップのさなかににあって、このお店だけは内面に目を向けているからだったかかもしれない。客層も、ひとりやふたりで、黙々とテーブルに向かっている人が多かった。
本というやつは、どれだけ読んでも読み過ぎるということはなく、しかしいちいち買うと場所を取るし、借りると気を遣いうしで、案外付き合い方が難しい。何より、ある一冊の本をしっかり集中して読み切るというのもいいが、図書館や書店で、好奇心の赴くままに何冊もの本を手に取って、ぱらぱらと頁をめくるという行為も大きな魅力の一つだ。BOWLは後者のような環境を与えてくれる素敵な場所で、会社帰りや休日によく寄らせていただいた。
そしてBOWLのもう一つの大きな魅力は、なんといっても豊富なフードメニューであろう。
喫茶、
しっかりとした食事、
アルコール。
とまあ、三拍子も四拍子もそろったお店だった。
場所代も含まれているので、価格設定はやや割高ではあったものの、ポイントカードのスタンプがすぐに貯まったり、ランチパスポート(というクーポンブック。掲載のランチがワンコインで食べられる!)が使えたので、むしろ安く感じてしまうくらいである。
数あるメニューの中で僕が一番よく食べたのが、白桃のスコップケーキだった。
スポンジケーキとフルーツ、ゆるめの生クリームをバットに重ね、スコップで大胆にすくって取り分けたケーキだ。これがもうコーヒーの進むいい甘さで、歯が無くても食べられるようなやわらかさと相まって、止まらないのだ。
片手に文庫本、片手にスプーンで、もくもくと甘い読書タイム。
ランチパスポートで、コーヒーとセットで500円だった期間もあったが、頭がスポンジになったみたいにこればっかり注文していて、そんなことをしている間にポイントがたまってケーキ無料券が出てくるので
──もう病みつきである。
そんなベタ褒めのBOWLの閉店ということで、先週はなんとも寂しい思いをした……。寂しさに拍車をかけたのは、閉店セール。雑貨が最大70%OFFになったり、お店で使用していた食器やインテリアがアウトレット品として販売されたりして、閉店の日が近づくにつれいよいよスカスカになってきた。
雑貨好きな人とってはお得ではあるが、こういうお得さはすんなりとは受け入れがたい。雑貨自体はもちろん好きだが、雑貨が集まっているあの空間が好きだったんだな、とつくづく知らされた。
閉店セールで、僕はココットを購入した。
何の変哲もないココットだが、この店で使われていたからこそ、なんとなくほしくなったのだ……。
空っぽになった店内とは引き換えに、コミュニティーノートは、閉店を惜しみ感謝を告げる言葉で埋め尽くされた。
ありがとうございました。またいつかお会いしましょう。
……ちなみに、最後に朗報を。
店員さんと話して知ったのだが、こちらのブックカフェは、リーディングスタイル株式会社というところが経営されているそうで、この会社自体が無くなったわけではないようだ。
何もかも同じというわけにはいかないが、「ソリッドアンドリキット コミコミスタジオ町田」や「マルノウチリーディングスタイル」などの姉妹店は今も営業中とのことなので、こちらも足を運んでみたい。
出会いがあれば別れがある。別れがあれば出会いもある。